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2013年5月29日 (水)

【小説】マグマ~神の火に代わる、地熱という力~

『マグマ』/真山仁/角川文庫


 「これは、あくまでも僕の独断と偏見です。この十年の停滞の最大の理由は、電力会社が、原発という神の火を手に入れたことで、後戻りできなくなったからだと思います」(p.97)

 

 作者の真山仁は『ハゲタカ』シリーズを初めとした経済小説で知られている。

 真山仁の特徴は、「緻密な取材をもとに現代社会の闇に切り込む」というスタイルを取っていることである。その筆致は『マグマ』においても冴えわたっている。

 

―あらすじ―

外資系投資ファンド会社勤務の野上妙子が休暇明けに出社すると、所属部署がなくなっていた。ただ1人クビを免れた妙子は、支店長から「日本地熱開発」の再生を指示される。なぜ私だけが?その上、原発の陰で見捨てられ続けてきた地熱発電所をなぜ今になって―?政治家、研究者、様々な思惑が錯綜する中、妙子は奔走する。世界のエネルギー情勢が急激に変化する今、地熱は救世主となれるか!?次代を占う、大型経済情報小説。

(BOOK」データベースより)

 

 『マグマ』が初めに出版されたのは2006年のことである。3.11以来、原発に代わる新たなエネルギーに注目が集まっているが、筆者はその5年前からあるエネルギーに注目していた。それは地熱である。

 地熱発電とは文字通り地熱(主に火山活動による)を用いて行う発電である。地熱発電は石油や石炭などの化石燃料を使わないクリーンエネルギーである上に、国内で自給することができるという大きなメリットを持つ。また、懸念であったコスト面も近年では費用対効果が上昇し、現在では8.3/kWhを可能にしている。特に地熱の盛んな九州電力では、八丁発電所にて7/kWhを達成しているほどである。これは発電コストが低い石炭の6~7/kWhに見劣りする数値ではない(エネルギー白書』(2010))

 しかし、それにも関わらず地熱発電による発電量は全体の約0.2%にすぎない。最も地熱発電の盛んな九州電力においても九州の2%を担うのみである。

 地熱発電が進まないのは何故か。それは、地熱発電の有力スポットの大半が国立公園内にあること、温泉組合の強い反対があることである。地熱発電が可能な地域には温泉や国立公園があることが多い。そのため発電所の新設は利益関係者から強い反対を受けるのだ。(真山はHPにて地熱発電が進まない理由について「地熱は、なぜ無視され続けるのか」という文章を書いている。)

 また、もう一つ大きな理由がある。それは原子力発電の存在である。オイルショックまで、日本の発電を支えていたのは火力だった。しかし、原油価格の高騰やエネルギー消費量の増大により、日本は長らく原子力発電に頼ることになった。そして、原子力発電は日本の総発電量の三割を占めるまでになった。

 原子力発電に大きな危険が伴うことは、福島原発事故以前からあらゆる場で批判されていた。災害への対策が不十分であることや、定期的な点検の必要性は昔から指摘されていたのである。けれど原発は止まらなかった。国や電力会社は「問題ない」の一点張りを続け、結果事故が起こった。

作中にこんな場面がある。原発は止めようと思えば止められるのではないか、という妙子の質問に対し、地熱発電の老技術者御室が応える場面である。

 

「我々は禁断の神の火を手に入れてしまったために、後戻りできなくなっているんだよ」

「神の火、ですか」

 「そうだ。石油や石炭では考えられないような爆発的なエネルギーを僅かな原料で生むことができる奇跡。原発なら一基の発電機で、100万キロワットもの電力が生まれる。それを何基も据えれば、効率もよくなる。こんなぼろい発電を手に入れた人間が、それを捨てられるかということだよ」

 

原発という神の火は独りでに燃えているのではない。燃やしている者がいるのだ。神の火に代わる存在となり得る地熱。地熱を押し進めようとする妙子と御室の前に、彼らは立ちはだかる。また、温泉組合や政治家、外資系企業など、様々なサイドの思惑が絡み合う。『マグマ』を読んだ後、私たちは複雑怪奇なエネルギー業界の裏側を覗き見るとともに、エネルギー不足に悩むわが国の未来に、わずかばかりの希望を持てるようになるだろう。

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